――― 綺麗な彼女をお持ちですね。
突然の雨。
大粒の雨の中、駆け込んだタクシーの運転手がミラー超しに声をかけてくる。
私は笑顔で和美の肩に手をかけると
力強く和美の体を引き寄せ、こう言った。
――― そうでしょ? 俺には勿体ない程のイイ女でしょ?
やがて男に間違えられる事が
ある種の優越感のようにすら感じるようになっていった。
面倒臭い女とは私は違う。
飾りっ気がなく、素のままの私。
ありのままの私。
少年を演じていた私はいつしか少年そのものとなっていった。
――― こーっ、お前は飾りっ気がなくていい。
和泉の言葉が、とても心地よく感じたものだった。
何もかもが順調だった。
仕事
友情
環境
何の悩みをなく
私は毎日、笑っていた。
毎日が楽しくてたまらなかった。
だが神様は残酷で
私が何か一つ手に入れる度に
その代償として私の中から何かを奪い取ってゆく。
笑顔の先に大きな暗闇が潜んでいるなんて
この時の私は想像すら出来なかったのだ。